内部通報窓口代行サービス
パワハラ防止法施行直前!弁護士と語る第三者機関の重要性とは?
2020年11月17日公開
※本記事は19年8月の内容を再公開したものとなります。
概要
「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が、2019年5月29日の参院本会議で可決・成立した。※施行は大企業が2020年4月、中小企業が2022年4月になる見込みだ。
パワハラ防止法は、日本で初めてパワー・ハラスメント(通称:パワハラ)について規定し、防止策を企業に義務化するもので、2020年から適用される大企業では、早急な準備が求められている。
近年、認知度の上がった「パワハラ」という言葉。この実態について、また法律施行にあたって、企業が考えるべきこと、準備が必要なことなどを、相談を受ける士業の立場から弁護士の淵邊善彦氏、企業の内部通報窓口代行サービスを運営するNEC VALWAY株式会社の佐藤雅彦氏と実際に相談を受けているカウンセラーのお2人に伺った。
プロフィール
淵邊善彦氏 (ベンチャーラボ法律事務所代表、弁護士)
第一東京弁護士会(1989年登録)、TMI総合法律事務所パートナー(2000~2018年)、東京大学教授(2016~2018年)、中央大学客員教授(2013年~)、日弁連外国弁護士及び国際法律業務委員会委員、日弁連中小企業の海外展開の法的支援に関するワーキンググループ副座長、ヘルスケアIoTコンソーシアム理事、日本CFO協会顧問、アジア経営者連合会会員、与信管理協会顧問
現代を取り巻く
パワハラ問題とは?
弁護士の立場から、現代のパワハラ問題について感じていらっしゃることを教えてください。
淵邊弁護士
パワハラという単語がなかった世代と、今の時代の人たちのコミュニケーションギャップがあると感じています。グローバル競争が厳しく、レッドオーシャンの争いによってより高い成果を求められている現代の上司は、疲弊していることも多い。さらに、働き方改革があって残業制限などもしっかり対応しないといけないとなると、上司のストレスが増えているのではないでしょうか。これが、パワハラの原因の一つになっているのかもしれないと思っています。今回、政府がこれを重く受け止め、法律ができるということですね。
しかし、相談を受けているなかで、個人的にはこれがパワハラだろうか?というものも少なからずあることも事実です。コミュニケーションギャップや信頼見解の不足によるものが大きいと思っています。相手がパワハラと受け止めればそうなってしまうという面もあり、パワハラの定義に関しては一般的にはまだまだグレーゾーンが大きいですね。被害者の受け止め方によって何でも認定してしまうと、打たれ弱い社員ばかりの会社ができてしまうのでは?という危惧もあります。しかし、中にはすごく深刻なものも確かにあるので、見極めが大切になってくると思います。それまでの仕事の関係や人間関係も含め、総合的に慎重に認定する必要があります。
今までパワハラの相談を受けた中で特に多い内容など、傾向はありましたか?
淵邊弁護士
言葉の暴力、人格否定のようなものが多いです。あとは仕事を与えてもらえない、悪意のある人事評価などですね。これらは、今に始まったことではなく昔から存在していると思いますが、最近の社員はハラスメントに関して知識もあり、感じやすくなっているので、問題が顕著になってきたのではと思います。
法律施行に向けて、企業がしっかりと準備していくことが重要ですが、
どのような準備をしていくべきでしょうか?
淵邊弁護士
社内体制をしっかりと作ることですね。トップダウンが必要です。社長が方針を示して、全社統一でやり切るのがとにかく大事。パワハラを根絶するんだという強いメッセージのもと、本気で取り組むべきです。しかし、各会社の風土や経営方針はあると思いますし、法律で画一的に変えられないこともありますから、各社がどこまでやるべきかは難しいところです。とはいえ、やると決めた以上はしっかり取り組むことが重要です。形だけではない、プロを配置した相談窓口や、相談にあたる人を他社員の風当たりから守るケア体制など、広い視野から本気で取り組むべきと思っています。
企業の内部通報窓口代行サービスを手掛ける、NEC VALWAYさんでは、
法律施行前の企業の準備に関して現状をどのようにお考えですか?
NEC VALWAY 佐藤
準備をするにあたって、正しい知識が必要という意味で、問題が2つあると思っています。
1つはパワハラについての正しい知識を持つ人がまだまだ少ないという問題です。当社で受ける相談の約半数がパワハラに関連するものですが、相談の3割から4割はパワハラに該当しないと考えています。これは「パワハラ」というワードの認知度が高い一方で、「パワハラの定義」を知っている人がほとんどいないことが要因としてあるのではないかと思います。実際の相談でも、「自分がパワハラだと感じたからパワハラ」、「強制されたからパワハラ」という訴えが多くありますが、実は全く違うんですよ。
もう1つはグレーゾーンの問題です。厚生労働省はパワハラを「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義していますが、業務上必要と業務上不要の間には明確な区切りはなく、多くのグレーゾーンが存在します。今話題のパンプス問題がその典型ではないでしょうか。またパワハラというと「いじめや嫌がらせ」などの悪質なものを想像されるかと思いますが、最近は相手を思って実施した指導が言い方・伝え方を間違えてパワハラと受け止められているケースも多く存在します。これは先ほど淵邉先生がおっしゃった「コミュニケーションギャップ」も要因だと思いますが、グレーゾーンになりやすいので注意が必要です。
厚生労働省は「業務上必要な範囲」、「業務の適正な範囲」は会社や団体がそれぞれで決めてくださいと言っています。企業でパワハラ問題を取り扱う部署はパワハラの定義やグレーゾーンについて正しい知識を身につけ、制度の設計や規程の策定に着手するべきです。
「内部通報窓口代行サービス」とはどのようなサービスなのでしょうか?
NEC VALWAY 野村相談員
元々は、労働者のメンタル不調に対して、カウンセラーが電話で相談を受ける「メンタル相談窓口」を始めたのがきっかけです。メンタル不調の裏にはハラスメント問題や長時間労働等の職場環境問題が潜んでいることが多く、第三者機関として弁護士や医師などと連携して公益通報や人権相談を受け付ける「内部通報窓口」に発展させました。このような経緯から資格を持ったカウンセラーがしっかり傾聴して話を聞くというところに特徴があります。
話を聞くカウンセラーの方は、パワハラかそうでないかとジャッジはせず、
あくまで傾聴するということなのですね。
NEC VALWAY野村相談員
はい。傾聴と共感に重き置いたヒアリングを行いながら、相談内容を過不足なくレポートにまとめ、企業に報告します。先ほどお話ししたとおり、パワハラに認定する、しない等の基準は企業毎に異なりますので判断は各企業にお任せしています。
淵邊弁護士
傾聴して話を引き出す、共感するというのはとても大事ですね。弁護士の場合は、専門のカウンセラーと違って、うまく話を引き出して共感できるかと言ったら、その限りではないと思います。訴訟の証人尋問のような紛争関係の場合を除けば、専門の教育を受けていませんからね。話を聞いたら、すぐに法的に解決できるメリットはあるものの、本質を見つけるまでずっと話を聞き続けられるか、引き出せるかも分からないので、ある程度専門的な訓練を受けた人が話を聞くということが必要だと確かに思います。
最近はどのような相談が多いのでしょうか?
NEC VALWAY蔵相談員
業種で偏りがありますが、コールセンターや店舗、工場など閉鎖的な環境でパワハラ問題が起こるケースが多いと感じます。始めは違う話をしているのですが、少しずつ聞いていくと実はパワハラだったというケースですね。1件の相談に要する時間は、平均して40分ほどなのですが、じっくり傾聴することで信頼関係が生まれ、最後の最後に本質的な問題につながる重大な事実が語られることもあります。
淵邊弁護士
逆のパターンもあって、よくよく聞くと、ただの喧嘩や恨みだったという場合もありました。しかし、悪質なパワハラ事例も確かにありますので、カウンセラーさんが専門的な知識を元に傾聴して、隠れている問題を見つける、ということがとても重要ですね。
NEC VALWAY蔵相談員
あとは、相談者はAの部分を中心に話しているものの、ちらっと話したBの部分の方が、企業的にはよっぽど問題だというケースも少なくないです。個人の問題と、社内的な企業の問題が別になっているケースですね。こういうところでも、第三者のジャッジは必要と感じます。
弁護士から見て、NECVALWAYが提供する
「内部通報受付代行サービス」のメリットはどのようなところでしょうか?
淵邊弁護士
企業も個人も、最初から弁護士へ相談するのは敷居が高いことが多いと思います。そこにおいて、窓口代行を担ってくれるサービスがあって、専門知識を持ったカウンセラーが寄り添ってくれるとなると、通報しやすくなって、深刻な問題が早期に見つかりやすくなるのではないかと思います。
淵邊弁護士
繰り返しになりますが、トップダウンで社長、経営陣がしっかりメッセージを出すことです。施行に合わせて最初にしっかりやるのが肝心です。これが第一ですね。
第二に、実行できるシステム(相談員の配置、会社の立ち位置の説明など)を整えることです。システムを整えるという局面では、NEC VALWAYさんが提供するような第三者機関に依頼するのも有力なソリューションです。形だけのシステムではなく、きちんと課題を解決できる方法を取らないといけませんからね。今いる社員に負担を増やさずに、外部に積極的に頼っていくことも、大事だと思いますよ。
これまでは、企業のなかでのパワハラ対策の優先度は必ずしも高くなかったと思いますし、法律が施行されてもそれは大きく変わらないと思います。企業は、売上・利益を上げること=成果を出して会社を成長させることが本分ですから。
その上でしっかり法律を遵守するためには、その会社がパワハラ対策をやる意味や方針、実行のシステムをしっかり示すことが重要です。
NEC VALWAY 佐藤
私も繰り返しになりますが、正しい知識を持つことが重要であると考えているので、勉強会や研修会の開催が必要だと思います。
パワハラには大きな勘違いが2つあって、1つは「相手がパワハラと思ったらパワハラ」になるということ、2つめは、「何かを強制されたらパワハラ」という勘違いです。この2つは、経営陣や管理職も勘違いしていることが多いです。パワハラには国が示す定義があるので、このあたりを学んで認知をしてもらえたら、企業も従業員も余計な工数が減るはずです。
淵邊弁護士
研修は、受講した社員が内容をしっかり理解して、実際に実行に移してくれるようなものにしないといけませんよね。一方的な説明だけでは自分のことと思わない社員が多いと感じています。
NEC VALWAY 野村相談員
そこに我々の強みがあると思っています。NEC VALWAYでは、実際に相談を受け付けていますので、具体的な事例をお伝えすることが出来ます。そうすることで、ただの座学ではない研修を実施することが可能になっています。
淵邊弁護士
なるほど、臨場感ある研修になっているんですね。録音などの記録がなく、客観的な証言がない中で、ハラスメントを認定していくのは企業だけでは難しいので、第三者機関は重要ですね。先ほどから野村さんもおっしゃっているように、企業がそこに費やす時間を創出するのもまた大変だろうと思います。
NEC VALWAY 野村相談員
ほとんどの企業が人事や総務の担当者が兼務している状態ですから、これには限界があると思います。
淵邊弁護士
人事評価に影響するのではと誤解されやすいデリケートな問題ですから、人事兼任はやめたほうがいいでしょうね。
法律の施行により、パワハラに関する認知度が一層高まって相談件数が増えることが予想されます。
相談を受ける際に最も大事にしていることはございますか?
NEC VALWAY 野村相談員
相談を受けたときの一次対応が何より大事と思っています。深刻そうな方でも、お話に傾聴するだけですっきりされて、会社へ通報しなくて良いですとおっしゃる場合もあります。
一方、先ほども申し上げたように、深刻な問題が隠れているケースもあるので、傾聴せずに不用意な判断をすることは危険です。私たちは、相談員全員が同じ対応を出来るような、安心して相談してもらえるような窓口を作っていきたいと思っています。
記事提供元
NEC VALWAY株式会社
https://www.necvw.co.jp/ja/NECグループのBPOサービス事業をけん引する会社として2001年設立。
NECが保有する技術や知識を活用し企業の健康経営を多角的に支援。
メンタルヘルスケアや電話相談サービスの分野で多くのユーザを抱える。